うとうととして

古典を少しずつ読みます。

農業革命の第一幕は(ディーツ版734-735頁)

(ディーツ版734-735頁)農業革命の第一幕は、作業農地にあった小屋を、最大の規模で、また上から下された合図にでも従うかのように、一掃してしまうことだった。こうして、多くの労働者は村落や都市に避難所を求めるよりほかはなくなった。 そこでは彼らは屋根裏や穴ぐらや地下室に、最悪の地区の片すみに、ぼろくずのように投げ込まれた。民族的偏見にとらわれているイングランド人の証言によってさえ、まれに見る家庭への愛着や屈託のない快活さや家庭生活の清潔さを特色としていた何千ものアイルランドの家庭が、こうして、にわかに悪徳の温室に移植されたのである。男たちは今では、付近の借地農業者のもとで仕事を求めなければならなくなり、やっと日ぎめで、つまり最も不安な賃金形態で、雇われる。〔後略〕(岡崎次郎訳。太字強調はブログ主による。)

 「最も不安な賃金形態」のところは「最も不安定な賃金形態」または「最も不安をもたらす賃金形態」であればすんなり読めます。原文に当たりました。

 「最も不安な」の元のことばはprekärstenです。形容詞prekärの最上級です。形容詞prekärの意味は手元の『デイリーコンサイス独和辞典』では「厄介な、面倒な、微妙な」とあります。『エクセル独和辞典』(郁文堂)には載っていません。英語のprecariousに当たります。
 『資本論』第1巻では3箇所に出てきて、他の2箇所では「不安定」と訳されています。おそらく、訳し分けたのではなくて「定」の脱字でしょう。ディーツ版第1巻巻末の917-923頁に外来語・外国語表現・珍しい表現の説明[1]という付録がついており、形容詞prekärには形容詞unsicherが当てられています。

 

(ディーツ版669-670頁)〔前略〕この基礎の上で行われる労働の需要と供給の法則の運動は、資本の専制を完成する。 それだからこそ、労働者たちが、自分たちがより多く労働し、より多く他人の富を生産し、自分たちの労働の生産力が増進するにつれて、自分たちにとっては資本の価値増殖手段としての自分の機能までがますます不安定になるというのは、いったいどうしてなのか、という秘密を見抜いてしまうやいなや、また彼らが、彼ら自身のあいだの競争の強さの程度はまったくただ相対的過剰人口の圧力によって左右されるものだということを発見するやいなや、したがってまた、彼らが労働組合などによって就業者と失業者との計画的協力を組織して、かの資本主義的生産の自然法則が彼らの階級に与える破滅的な結果を克服または緩和しようとするやいなや、資本とその追従者である経済学者とは、「永遠な」いわば「神聖な」需要供給の法則の侵害について叫びたてるのである。〔後略〕(岡崎次郎訳。太字強調はブログ主による。)


 

 

(ディーツ版674頁)ますます増大する生産手段量が、社会的労働の生産性の増進のおかげで、ますますひどく減って行く人力支出によって動かされうるという法則 ――この法則は、労働者が労働手段を使うのではなくむしろ労働手段が労働者を使うという資本主義的基礎の上では、労働の生産力が高くなればなるほど、労働者が自分たちの雇用手段に加える圧力はそれだけ大きくなり、したがって、労働者の生存条件、すなわち他人の富の増殖または資本の自己増殖のために自分の力を売るということはますます不安定になるということのうちに表わされている。岡崎次郎訳。太字強調はブログ主による。)

「ますます不安定」の元のことばはimmer prakärerです。

 

 「作業農地にあった小屋を、最大の規模で、また上から下された合図にでも従うかのように、一掃してしまう」の箇所で、多くの方がゲーテファウスト』を思い出されることでしょう。ゲーテが何に材をとったかはいつか調べます。

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文献[1] Erklärung der Fremdwörter, der fremdsprachigen und seltenen Ausdrücke,

MARX • FRIEDRICH ENGELS WERKE-BAND 23,DIETZ VERLAG, 1963,  pp.917-913

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(以下文法事項。)
名詞Formは女性名詞。句in der Formの中で3格をとる。
1格 die Form
2格 der Form
3格 der Form
4格 die Form

形容詞prekärは比較級prekärer、最上級prekärst。
1格 die prekärste Form
2格 der prekärsten Form
3格 der prekärsten Form
4格 die prekärste Form