うとうととして

古典を少しずつ読みます。

スタフォードシャーでもサウス・ウェールズでも、少女や婦人が炭坑やコークス置き場で(ディーツ版23巻272頁註)

「スタフォードシャーでもサウス・ウェールズでも、少女や婦人が炭坑やコークス置き場で、昼だけでなく夜も働いている。議会に提出された報告のなかで、このことは、大きな明白な弊害をともなう習慣として、たびたび言及された。この婦人たちは、男といっしょに働いていて衣服からはほとんど男と見分けがつかず、ほこりや煙で汚れていて、その品性の堕落の危険にさらされている。というのは、彼女たちは、その非女性的な仕事のほとんど不可避な結果として、自尊心を失っているからである。」 (同前〔『児童労働調査委員会。第3次報告書』〕194ページ〔第194号〕別付26ページ。『第4次報告書』(1865年)、第61号、別付13ページ参照。) ガラス工場でも同様である。(ディーツ版23巻272頁註。岡崎次郎訳。亀甲括弧〔 〕内はブログ主。)

 

 

 マルクス資本論の中でイギリスの公式の調査報告書からたくさん引用しています。抜粋なので、その前後、また、途中省略された箇所を読んでみたい、と思いました。今回は、その作業のとっかかりです。

 

 上記引用中の炭坑は、炭坑は炭坑でも、地下労働はすでに1842年の鉱山法によって禁止されていたので(下の引用参照)、地上労働に限定されます。(上記引用は第8章に出てきます。はるか先の第13章に出てくる事柄を知らないと読み違える、という不親切さ。)

 

1840年の調査委員会はあのように恐ろしいけしからぬ暴露をやって、全ヨーロッパの前でひどい騒ぎをひき起こしていたので、議会は1842年の鉱山法によって自分の良心を救わなければならなかったのであるが、この法律は女と10歳未満の子供との地下労働〔坑内労働〕を禁止するだけにとどまった。(ディーツ版23巻519頁。岡崎次郎訳。太字強調と亀甲括弧〔 〕内はブログ主。)

 

婦人労働者は 、1842 年以後はもはや地下では使われないが、地上では石炭の積み込みなどや、運河や鉄道貨車まで炭車を引っぱって行くことや、石炭の選別などに使われる。その使用は最近3-4年のあいだに非常にふえた。(第1727号。)(ディーツ版23巻522頁。岡崎次郎訳。太字強調はブログ主。)

 

 次に、上記引用文中の炭坑は、報告書の原文にあたるとpit-banksとあります。pit-bank/pit-banksは、ボタ山にあたることばであるようです。

 pit-bankがボタ山にあたることばであることについては、鉄村 春生(1989)や勝野 まり(2012)を参照してください。また、ゾラの『ジェルミナール』の英語訳(Project Gutenbergという、青空文庫的なウェブ上の図書館にあります)で、pit-bankはしばしば出てきて、ascend the pit-bank(ピットバンクを登る)という表現が出てきます。なので、pit-bank=ボタ山説を裏付けます。 

 冒頭の引用箇所の中で炭坑をボタ山に改めて、「スタフォードシャーでもサウス・ウェールズでも、少女や婦人がボタ山やコークス置き場で、昼だけでなく夜も働いている」とすると、少女や婦人が炭坑では地上で働いていると、迷わずにわかります。

 

 

 Google Books で、第194号の後半部分を補います。(下記の一部分をGoogle Booksの検索のところに入れると、報告書を探し当てることができます。)

 It would only be a proper supplement to the measure which forbid the employment of female in mines, to forbid it also on the pit-banks and on the coke heaps. Their employment, as at present existing, about the furnaces and mills, by night, would be put a stop to by those places of work being subjected, as proposed, to the Factory Acts. Google Books で、第194号の後半部分を補った。斜体で強調した箇所は、原文ではイタリック体で強調されている。)

 下記は、第194号後半部分をブログ主が訳したものです。

 

 ボタ山やコークス置き場でも婦人の雇用を禁止することは、坑での婦人の雇用を禁止する処置の、適切な補足にすぎないであろう。提案されているように、工場法の適用を受けるこれらの職場は、現在存在しているような、炉や工場周囲での夜間の雇用をやめることになるであろう。

[補足] なお、ボタ山はフランス語ではterrilまたはterriというそうです。手元の辞書『デイリーコンサイス仏和・和仏辞典』に「terril, terri採掘くずの捨て場所、ぼた山」とあります。

[2024年5月6日補足] ボタ山は、現在、英語では、slag heap/slag heapsと言うのが一般的のようです。炭坑の、と限定したいときはcoalをつけてcoal slag heap/coal slag heapsと言うようです。

[2024年5月5日付記] 冒頭の引用文では、そもそも、炭坑とコークス置き場は対にはなりにくい。炭坑と製鉄所なら対になります。ここでまず引っかかります。

[参照した文献] 

鉄村 春生(1989)、英文学作品の読み (Ⅱ)、長崎大学教育学部教科教育学研究報告 13巻、191-219。

勝野 まり子(2012)、 "Odour of Chrysanthemums"「菊の香り」に関する一考察 -リアリズムがシンボリズムを超えて伝えるところ-、日本橋学館大学紀要 11 巻、 3-18。