うとうととして

古典を少しずつ読みます。

労働者の子供の搾取が彼らの生産につけるプレミアム(ディーツ版671頁)

このような事情のもとでは、プロレタリアートのこの部分の絶対的増大は、その構成要素が急速に消耗するにもかかわらずその数を膨張させるという形態を必要とする。つまり、労働者世代の急速な交替である。 (この法則は人口のうちの他の諸階級にはあてはまらない。)この社会的要求は、大工業の労働者の生活事情の必然的な結果である早婚によってみたされ、また、労働者の子供の搾取が彼らの生産につけるプレミアムによってみたされるのである。

 (岡崎次郎訳)

 太字にした箇所でとまどいます。

 ここは、生産につき、文脈からは、「労働者が労働者の子供を生産する」ということになります。ただ、通例、「子供を」ときたら「産み育てる」で受けます。「労働者が労働者の子供を産み育てる」となります。

 生産(対応する英語の動詞はproduce、ドイツ語の動詞はproduzieren)ということばを人について使うことにつき、マルクスの時代に(19世紀中盤から後期にかけて)で熟していたか、という点ですが、資本論の中で、H・メリヴェールの1841年、1842年の著書からの引用文中(ディーツ版663頁)に

人間の再生産がどんなに速く行われても、成年労働者の補充のためにはとにかく一世代の間隔が必要である。岡崎次郎訳)

Wie rasch immer die Reproduktion von Menschen sein mag, sie braucht jedenfalls den Zwischenraum einer Generation zum Ersatz erwachsner Arbeiter.(英文からのドイツ語訳)

とあるので、例えば〈Arbeiter reproduzieren sich.〉のように、人間に対してproduzierenを使うのは、当時通用していたのではないか、と思われます。

  冒頭で抜き書きした箇所は、自分の息子・娘が幼いうちから家庭外で働いてなにがしかの労賃を得ることで家計の助けになることを期待して子どもを積極的につくる、ということを言っているのではないか、と思われます。

 岡崎次郎訳に手を入れます。

「この社会的要求は、大工業の労働者の生活事情の必然的な結果である早婚によってみたされ、また、労働者の子供を搾取して子供を生産することに対するプレミアム〔報酬〕を労働者に与えることによってみたされるのである。」

 「プレミアム」というと、それなしでもやっていけて、それが上乗せされるとより余裕のある暮らしができるようになる、という感じですが、そのような甘いものではありません。少し前(ディーツ版664~665頁)には次のようにあります。

また、やはりすでに見たように、資本家は同じ資本価値でより多くの労働力を買うようになる。というのは、彼はますます熟練労働者を未熟労働者によって、成熟労働者を未成熟労働者によって、男子労働者を女子労働者によって、成年労働力を少年または幼年労働力によって、駆逐して行くからである。

岡崎次郎訳)

  さかのぼると13章(ディーツ版416頁)に次のようにあります。

機械が筋力をなくてもよいものにするかぎりでは、機械は筋力のない労働者、または身体の発達は未熟だが手足の柔軟性が比較的大きい労働者を充用する手段になる。それだからこそ、婦人・児童労働は、機械の資本主義的充用の最初の言葉だったのだ!  こうして、労働と労働者とのこのたいした代用物は、たちまち、性の差別や年齢の差別もなしに労働者家族の全員を資本の直接的支配のもとに編入することによって賃金労働者の数をふやす手段になったのである。 資本家のための強制労働は、子供の遊びにとって代わっただけではなく、家族自身のために、家庭内で慣習的な限界のなかで家族自身のために行なわれる自由な労働にもとって代わったのである。

岡崎次郎訳)

 冒頭に抜き書きした箇所の表現は、やっぱり、辛辣ですよねえ。きっついなあ。自分の息子・娘が搾取されて、それで報酬とか言われてもなあ。

 

 

[付記] 現代ではリプロダクティブヘルス/ライツということば(あるいは概念、理念)で、人に対してreproduce(を形容詞にした形)が出てきます。

リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)という概念は、子どもを産む産まない、産むとすればいつ、何人産むかを女性が自己決定する権利を中心課題とし、広く女性の生涯にわたる健康の確立を目指すものであり、平成6年にカイロで開催された国際人口・開発会議において提唱されてから、その重要性が国際的に認識されてきている。

 (「生涯を通じた女性の健康施策に関する研究会 報告書」(厚生省児童家庭局母子保健課、平成11年 7 月)から。

 

 

[2023.5.3.付記] 上で抜粋した箇所(ディーツ版664~665頁)はよりコンパクトには次のように言えます。

資本はより多くの年少労働者を必要とし、より少ない成年男子労働者を必要とする。資本論第1巻ディーツ版670頁)