うとうととして

古典を少しずつ読みます。

綿、羊毛、毛糸、亜麻、大麻、絹、黄麻工場(ディーツ版第1巻470頁)

(Ⅰ470)綿、羊毛、毛糸、亜麻、大麻、絹、黄麻工場、および機械靴下編業や機械レース製造業の全従業者岡崎次郎訳、太字強調はブログ主による)

 

 綿、羊毛、亜麻、大麻、絹、黄麻(こうま・おうま)は素材の名前で、毛糸のみ製品(あるいは半製品)なので、ひっかかります。(なお手元の『講談社[カラー版]日本語大辞典』では黄麻の読みはこうま・おうまどちらもあり。)

 羊毛工場、毛糸工場の元のことばはWollfabriken、Worstedfabrikenです。

 工場を表すドイツ語はFabrik/Fabriken(複数形がFabriken)。

 Wolle、Worstedがペアで出てくるときは紡毛(ぼうもう)、梳毛(そもう)が適切です。

 ディーツ版巻末の外来語・外国語表現・珍しい表現の説明にWorstedはドイツ語ではKammgarn、とあります。手元の辞書ではKammgarnは「ウーステッドヤーン、梳毛(そもう)糸」とあります(小学館『独和大辞典』)。

 紡毛、梳毛のちがいは丸安毛糸株式会社(東京都墨田区)のウェブサイトのKNIT MAGAZINEの記事「ニット糸のセミナーを復活しました!梳毛と紡毛について」ですんなり理解できました。記事を書かれた方、ありがとうございます。この記事は直接ご覧ください。

 ここでは、小島春男(1977)から抜粋します。

 

〔羊毛は〕用途により梳毛糸用羊毛と紡毛糸用羊毛に分類される。

[a] 梳毛糸用羊毛は繊維長く且つ均一で縮絨の多い上等なものである。之より製造されるのが梳毛糸であり、直線平行化、撚掛け等を十分に行い、背広生地、メリヤス糸等の原料となる。

[b] 紡毛糸用羊毛は繊維短く且つ不均一で縮絨性も少ないのが普通で比較的劣った据物(すそもの)原料である。

之より製造されるのが紡毛糸であり、線維も平行となっておらず表面が毛羽立っている。メルトン、毛布等の製造原料としたもの。(65-66頁。割ルビはブログ主による。)

 

 

 羊毛は羊毛でも、繊維の長さによって加工の仕方も違ってくる、ということがキーポイントで、この点が丸安毛糸の記事で全面に押し出して書かれてあったのでよくわかりました。

 

 資本論の訳文を「綿、紡毛、梳毛、亜麻、大麻、絹、黄麻工場」と、一部変更します。ここでは、綿で糸を作る工場、綿糸で織物を作る工場の総称として綿工場ということばが使われています。他も同じ。資本論で、羊毛で糸や織物を作る工場が紡毛工場・梳毛工場の二つに分けられていることについて、小島春男氏の論文中の記載が参考になります。

 

 我が国羊毛工場と、イギリスのそれとを比較すると、トップ製造業者と紡績業者が我が国では一貫経営組織をなしているのに対しイギリスでは分業をなしており、更に我が国では梳毛紡と紡毛紡を兼営するのが多いのに対し、イギリスでは専業方式が大部分である(70-71頁。太字強調はブログ主による。)

 

[註]トップは半製品の呼び名です。

 トップTop 洗上羊毛を梳(くしけず)って毛筋を揃えスライバー状にしたもの。(小島春男論文64頁。割ルビはブログ主による。)

 

[引用文献]

小島春男(1977)、羊毛について、城西経済学会誌 13(2):55-78

 

[2023.8.4.付記] 梳毛は長繊維羊毛、紡毛は短繊維羊毛と言い換えてもよさそうです。味も素っ気もない言い方ですが。