うとうととして

古典を少しずつ読みます。

資本論第1巻(ディーツ版729頁)のアイルランドにおける農業の統計の表Cが、計算が合いません。

 

 資本論第1巻(ディーツ版729頁)の表Cが、計算が合いません。

 作付面積(エーカー)×1エーカー当たり生産量が総生産物とズレます。

 そこで、作付面積は合っているか(転記ミスがないか)、1エーカー当たり生産量(収穫高)は合っているか(転記ミスがないか)を検討しました。これらが合っているならば、ないしはぴったり合っていなくとも妥当な数値ならば、上記のズレはマルクスの計算間違いだろう、ということになります。

 マルクスの利用した資料そのものは確認が困難です。そこで、学術論文に引用された統計資料と対照する、という方法をとります。



アイルランドにおける作付面積の増減(1847-1896年)(単位1000エーカー)
  年度 小麦 オート麦 大麦 ジャガイモ
1847 744 2201 333 284
1856 529 2037 189 1105
1866 299 1700 153 1050
1876 120 1487 221 881
1886 70 1322 182 800
1896 38 1194 173 706
1847年から1896年までの増減率 (-)95% (-)46% (-)48% (-)36%

 

アイルランドにおける作付面積の増減(1847-1896年)(単位1000エーカー)
  年度 牧草地 放牧地
1847 1139
1856 1303 9545
1866 1601 10004
1876 1861 10507
1886 2094 10163
1896 2202 10344
1847年から1896年までの増減率 (+)93% (+)8%

出所:B. R. Mitchell (ed. ), British historical statistics, 1962, p. 80.

ジャガイモと放牧地の増減率は、1856年から1896年までの数字である。

(本多三郎(1976)の第2表 アイルランドにおける作付面積の増減 から。)

 

 資本論第1巻(ディーツ版729頁)の表にある作付面積は次の通り。

アイルランドにおける作付面積の増減(1864-1865年)(単位1000エーカー)
  年度 小麦 オート麦 大麦 ジャガイモ
1864 276 1815 173 1040
1865 267 1745 177 1066

 

アイルランドにおける作付面積の増減(1847-1896年)(単位1000エーカー)
  年度 牧草地
1864 1610
1865 1678

B. R. Mitchell の示す数値とマルクスの示す数値とは近いです。

[註] オート麦は燕麦、オーツ麦と同じ。

 

 イギリスの1エーカー当たり収穫量は次の通り。

1エーカー当たり収穫量(1770-1850年)(単位ブッシェル)
  1700年 1750年 1800年 1850年
小麦 16.0 18.0 21.5 28.0
ライ麦 17.0 18.0 26.0 28.0
大麦 23.0 25.0 30.0 36.5
オート麦 24.0 28.0 35.0 40.0
20.0 28.0 28.0 30.0

出所:R. C. Allen, Agriculture during the Industrial Revolution, p. 112.

(原 剛(1999)の表3 1エーカーの収穫量1770-1850年 から。)

 この表の数値を1ブッシェル=60重量ポンド、1ハンドレッドウェイト=112重量ポンドとして換算すると次の表を得ます。

1エーカー当たり収穫量(1770-1850年)(単位ハンドレッドウェイト)
  1700年 1750年 1800年 1850年
小麦 8.6 9.6 11.5 15.0
ライ麦 9.1 9.6 13.9 15.0
大麦 12.3 13.4 16.1 19.6
オート麦 12.9 15.0 18.8 21.4
10.7 15.0 15.0 16.1

 

 資本論第1巻(ディーツ版729頁)の表にある1エーカー当たり収穫量は次の通り。

1エーカー当たり収穫量(1864、1865年)(単位ハンドレッドウェイト)
  1864年 1865年
小麦 13.3 13.0
大麦 15.9 14.9
オート麦 12.1 12.3

 二つの表の数値は、かけ離れてはいません。オート麦の収穫量がずれてはいますが、倍にはなっていません。

 

 

[引用文献]

本多三郎 (1976)、アイルランド農業とイギリス資本主義-19 世紀後半以降の畜産業の発展を中心にして-、經濟論叢 117(4):244-271。

原 剛(1999)、産業革命と飢饉からの開放?、城西大学大学院研究年報15(2):1-16。

本多三郎 (1976)、原剛(1999)の典拠とした文献は以下の通り。

B. R. Mitchell (ed. ), British historical statistics, Cambridge University Press, 1962, p. 80.

R. C. Allen, “Agriculture during the Industrial Revolution,” in R. Floud & D.  McCloskey(ed.) The Economic.History of Britain since 1700 volume 1. 1700-1860(Cambridge University Press, second edition, 1994).