うとうととして

古典を少しずつ読みます。

労働力の所有者は、今日の労働を終わったならば(ディーツ版185頁)

労働力の所有者は、今日の労働を終わったならば、明日も力や健康の同じ条件のもとで同じ過程を繰り返すことができなければならない。だから、生活手段の総額は、労働する個人をその正常な生活状態にある労働する個人として維持するのに足りるものでなければならない。

岡崎次郎訳)

Wenn der Eigentümer der Arbeitskraft heute gearbeitet hat, muß er denselben Prozeß morgen unter denselben Bedingungen von Kraft und Gesundheit wiederholen können. Die Summe der Lebensmittel muß also hinreichen, das arbeitende Individuum als arbeitendes Individuum in seinem normalen Lebenszustand zu erhalten.

(原文)

 ここは、「生活手段の総和」「生活手段の合計」でいいのではないか? と思い辞書をひくとSumme「①金額、②(数の)和、合計」とあります。(語義はエクセル独和辞典から。)

 

共産党宣言」から。

賃労働の平均価格は、労賃の最低限、つまり労働者を労働者として生かしておくのに必要な生活手段の総和である。だから、賃金労働者が彼の活動によって取得するものは、彼のやっと生きているというだけの生命を再生産するのに、足りるだけのものでしかない。

村田陽一訳、全集4巻、489頁。)

Der Durchschnittspreis der Lohnarbeit ist das Minimum des Arbeitslohnes, d.h. die Summe der Lebensmittel, die notwendig sind, um den Arbeiter als Arbeiter am Leben zu erhalten. Was also der Lohnarbeiter durch seine Tätigkeit sich aneignet, reicht bloß dazu hin, um sein nacktes Leben wieder zu erzeugen.

(原文)

 「生活手段の総額」、「生活手段の総和」のどちらも原文ではdie Summe der Lebensmittelです。なので、資本論の上記の箇所は、「生活手段の総和」でも悪いことはない(少なくとも案としてはあり、検討に値する)ということになりそうです。

 

 

[付記] 前回抜き書きした箇所と今回抜き書きした箇所とは、同じ段落の中の文です。この段落全体を転記しておきます。(転記の際にゴチック体で強調しています。)

 労働力の価値は、他のどの商品の価値とも同じに、この独自の商品の生産に、したがってまた再生産に必要な労働時間によって規定される。それが価値であるかぎりでは、労働力そのものは、ただそれに対象化されている一定量の社会的平均労働を表しているだけである。労働力は、ただ生きている個人の素質として存在するのみである。したがって、労働力の生産はこの個人の存在を前提としている。この個人の存在が与えられていれば、労働力の生産は彼自身の再生産または維持である。自分を維持するためには、この生きている個人はいくらかの量の生活手段を必要とする。だから、労働力の生産に必要な労働時間は、この生活手段の生産に必要な労働時間に帰着される。言い換えれば、労働力の価値は、労働力の所有者の維持に必要な生活手段の価値である。だが、労働力は、ただその発揮によってのみ実現され、ただ労働においてのみ実証される。しかし、その実証である労働によっては、人間の筋肉や神経や脳などの一定量が支出されるのであって、それは再び補充されなければならない。この支出の増加は収入の増加を条件とする。(原注43)労働力の所有者は、今日の労働を終わったならば、明日も力や健康の同じ条件のもとで同じ過程を繰り返すことができなければならない。だから、生活手段の総額は、労働する個人をその正常な生活状態にある労働する個人として維持するのに足りるものでなければならない。食物や衣服や採暖や住居などの自然的な欲望そのものは、一国の気象その他の自然的な特色によって違っている。他方、いわゆる必要欲望の範囲もその充足の仕方もそれ自身が一つの歴史的な産物であり、したがって、だいたいにおいて一国の文化段階によって定まるものであり、ことにまた、主として、自由な労働者の階級がどのような条件のもとで、したがってどのような習慣や生活要求をもって形成されたか、によって定まるものである。(原注44)だから、労働力の価値規定は、他の諸商品の場合とは違って、ある歴史的な精神的な要素を含んでいる。とはいえ、一定の国については、また一定の時代には、必要生活手段の平均範囲は与えられているのである。

岡崎次郎訳)