うとうととして

古典を少しずつ読みます。

 ある歴史的な精神的な要素を含んでいる(ディーツ版185頁)

食物や衣服や採暖や住居などの自然的な欲望そのものは、一国の気象その他の自然的な特色によって違っている。他方、いわゆる必要欲望の範囲もその充足の仕方もそれ自身が一つの歴史的な産物であり、したがって、だいたいにおいて一国の文化段階によって定まるものであり、ことにまた、主として、自由な労働者の階級がどのような条件のもとで、したがってどのような習慣や生活要求をもって形成されたか、によって定まるものである。(原注44)だから、労働力の価値規定は、他の諸商品の場合とは違って、ある歴史的な精神的な要素を含んでいる。とはいえ、一定の国については、また一定の時代には、必要生活手段の平均範囲は与えられているのである。

岡崎次郎訳)

 今回、「歴史的な精神的な要素」が重要な点です。ですが、「必要欲望」ということばにひっかかりました。

 

Die natürlichen Bedürfnisse selbst, wie Nahrung, Kleidung, Heizung, Wohnung usw., sind verschieden je nach den klimatischen und andren natürlichen Eigentümlichkeiten eines Landes. Andrerseits ist der Umfang sog. notwendiger Bedürfnisse, wie die Art ihrer Befriedigung, selbst ein historisches Produkt und hängt daher großenteils von der Kulturstufe eines Landes, unter andrem auch wesentlich davon ab, unter welchen Bedingungen, und daher mit welchen Gewohnheiten und Lebensansprüchen die Klasse der freien Arbeiter sich gebildet hat.(44) Im Gegensatz zu den andren Waren enthält also die Wertbestimmung der Arbeitskraft ein historisches und moralisches Element. Für ein bestimmtes Land, zu einer bestimmten Periode jedoch, ist der Durchschnitts-Umkreis der notwendigen Lebensmittel gegeben.

(原文)

sog. はsogennanteの略。いわゆるの意。(英語のso calledにあたる。)

notwendigは 「(ぜひとも)必要な、不可欠な」の意。(語義はエクセル独和辞典から。)

 

 この必要欲望は、話の流れからは、わが国の憲法25条で言う生存権と関わっていそうなのです。

 

  堀木訴訟判決は、「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は、「時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきもの」である、とする。(芦辺信喜『憲法岩波書店、1993年、203頁から孫引き。)

 

ドイツ基本法「人たるに値する最低限度の生活保障への権利 Das Grundrecht auf Gewährleistung eines menschenwürdigen Existenzminimums」。(西村論文から孫引き。)

この権利は人間らしい生活の維持に無条件に必要な手段,ただし肉体的生存のみならず,最低限の社会的文化的政治的生活への参加の可能性への確保をも保障している。

(西村枝美、2016)

 

 ヴァイマル憲法151条は「経済生活の秩序は,すべての人に,人たるに値する生
を保障することを目指す正義の諸原則に適合するものでなければならない
 Die Ordnung des Wirtschaftslebens muß den Grundsätzen der Gerechtigkeit mit dem Ziele der Gewährleistung eines menschenwürdigen Daseins für alle entsprechen」と規定していた。

(西村論文から孫引き。)

 

 やはり、必要欲望は、生存権と深くかかわっていそうです。意味内容として、健康で文化的な最低限度の生活の内実をなす欲望、あるいは、人たるに値する生存の内実をなす欲望、ということになりそうです。。

 

[付記] 必要欲望は、いわゆる、というからには、よく使われることば/概念なのかと思い検索しますが、みつからず。

 

[文献]

清野 幾久子(2018)、福田徳三の生存権論の憲法的検討、明治大学法科大学院論集 21: 1-45。


西村 枝美(2016)、老齢加算訴訟 -憲法の観点から-、關西大學法學論集 66(2):68-80。