うとうととして

古典を少しずつ読みます。

決定的に革命的な機械、それはミシンである(ディーツ版495頁)その2。婦人服製造か婦人帽製造か。

決定的に革命的な機械、すなわち、婦人服製造、裁縫、靴製造、縫い物、帽子製造、等々のようなこの生産部面の無数の部門をすべて一様にとらえる機械、------それはミシンである。 

  (岡崎次郎訳)

   Die entscheidend revolutionäre Maschine, welche die sämtlichen zahllosen Zweige dieser Produktionssphäre, wie Putzmacherei, Schneiderei, Schusterei, Näherei, Hutmacherei usw. gleichmäßig ergreift, ist - die Nähmaschine.

  (原文)

 

 岡崎次郎訳で婦人服製造とあるのは、もとのことばはPutzmacherei。Putzmacherinの形では、語義は婦人帽作り職人(女の)。(語義はデイリーコンサイス独和辞典から。)ここからすると、Putzmachereiの語義は婦人帽製造、もしくは婦人帽製造業、となります。(語尾が-eiであると、「なになに業」という意味になるようです。)

 一方、資本論の注264(ディーツ版494頁)ではミリナリとドレスメーカーという英語の単語の註釈として

 ミリナリは本来は頭飾りだけに関するものであるが、婦人用の外套や小型マントにも関係があり、ドレスメーカーのほうはドイツのPutzmacherin〔婦人服製造婦〕と同じである。

 (岡崎次郎訳)

 とあります。ドレスメーカーが帽子製造職人を指す、ということには、とうていなりそうもありません。なので、資本論の中では、Putzmachereiは婦人服製造、または婦人服製造業を指す、ということになります。

 

 問題の箇所を「婦人服製造、服製造、靴製造、縫い物〔縫製〕、帽子製造」ととると服製造が並びますが、「婦人帽製造、服製造、靴製造、縫い物〔縫製〕、帽子製造」ととると帽子製造がえらく離れてしまいます。Putzmacherei=婦人服製造ととったほうがすんなり読めます。直接の証拠ではありませんが、「Putzmacherei=婦人服製造」説を補強します。

 

 Putzmacherinはディーツ版269頁から270頁にも出てきます。「単なる過度労働からの死亡」の箇所です。ここでは、つくるものは貴婦人用衣装です。(帽子ではなくて。)貴婦人用衣装のもとのことばはPrachtkleid(複数形でPrachtkleider) Prachtの語義は華美、華麗、壮麗、豪華。Kleidの語義は(ワンピースの)婦人服、ドレス、(複数形で)衣服、衣類。(語義はデイリーコンサイス独和辞典から。)

 

 資本論が出版されてからの100年あまりで、 婦人服製造から婦人帽製造へと、Putzmachereiの指示内容が変わった、ということでしょうか。